管理栄養士の年収は、全国水準よりも低いと報告されています。しかし、地域や職場・年齢により金額差が大きいので、自分の状況に当てはめて確認するのがおすすめです。進路や転職の判断材料となるよう、公的機関や企業のデータを使用して初任給や昇給状況・福利厚生の特徴や多職種との比較をしました。管理栄養士歴10年以上の筆者の経験を交えながら、年収アップの方法も紹介するので、キャリアアップにお役立てください。
栄養士・管理栄養士の「平均年収」・「月収」や「手取り」は?
「管理栄養士は国家資格のわりに安月給…」との声をよく耳にしますが、一体どのくらい給料を頂いているのでしょうか?平均年収だけでなく月収や手取り額についても確認してみましょう。
栄養士・管理栄養士の「平均年収」
管理栄養士の平均年収は350万~390万円ほどとされており、厚生労働省が行った令和4年賃金構造基本統計調査の結果では、栄養士と管理栄養士を一括りにした平均年収は379.1万円と示されています。
なお、国税庁が行った「令和4年分 民間給与実態統計調査」による日本全国の平均年収は458万円なので、全国水準よりも低年収であることがわかります。
栄養士・管理栄養士の「平均月収」と「手取り」
令和4年度ハローワークの求人統計データによると、全国の栄養士・管理栄養士の求人賃金の平均月額は21.5万円でした。賃金とは、労働に対して従業員が受け取るすべてのお金をいうので、基本給に固定手当や残業代も含めた月収と考えてよいでしょう。
月収から所得税や社会保険料などを引かれるので、手取りは14万~20万円ほどのケースが多いようです。
ちなみに、会社からいただくお金に対して「月収」や「月給」「手取り」といった呼び方があり、一体どの金額を指しているのか混乱してしまう方もいるのでは?混乱を解消するために、下記の図を参考に補足しておきましょう。
<基本給・月収・月給・手取りの関係>
栄養士・管理栄養士の地域別の年収は?
栄養士と管理栄養士を一括りにした都道府県別の年収で一番高年収だったのは、東京都で404万円でした。一方で、最も低年収だったのは大分県で298.8万円となっています。
地域により100万円以上もの年収差があるのは、都会に高待遇な大手企業が集中しており、生活コストが高いのが一因でしょう。
管理栄養士として高年収を目指すのであれば、都会で働く選択肢を考えてみるのも一つです。
田舎暮らしを楽しみつつ、自分の可能性を広げたい人は、フリーランスに挑戦する手もあります。
私は、地方でフリーランスとして活動しています。たくさんお仕事を頂ける月は、休日返上で働く日もあり、理想に描いていた“田舎でのんびりスローライフ”といった感じではありません。SNSを見ていると、効率よくガシガシ稼いでいる方もたくさんいますが、基本的には「行動量=収入」になるので、今悠々と稼いでいる方たちも、過去に相当な失敗と仕事量をこなしているはずです。私は不器用で効率よくこなすのが苦手なので会社員程度の給与ですが、会社員では経験できない仕事に挑戦でき、自分の知見が増えていく、この仕事にやりがいを感じています。
栄養士と管理栄養士の年収の違いは?
一概にはいえませんが、管理栄養士は栄養士よりも高年収な傾向があります。
例えば、給食委託会社の場合、栄養士手当よりも管理栄養士手当のほうが手厚い場合が多いです。
実際に筆者が以前勤めていた給食委託会社では、下記の金額差がありました。
・栄養士手当 5,000円
・管理栄養士手当 30,000円
同じ業務内容であっても、資格の種類により毎月25,000円もの差が生じるのは大きいですよね。なんと年間30万円もの差になりますから、管理栄養士を持っていた方が気持ちよく働けるでしょう。
栄養士・管理栄養士の初任給は?
短大卒や大学卒の栄養士・管理栄養士の初任給(新卒)を、会社の規模別に下記の表にまとめてみました。
企業規模 | 新卒栄養士 | |
短大卒 | 大学卒 | |
500人以上 | 152,943円 | 180,276円 |
100~499人 | 161,370円 | 180,539円 |
企業規模計 | 155,105円 | 180,454円 |
参照:「令和5年職種別民間給与実態調査 表3 初任給関係職種の職種別、地域別平均初任給月額」/厚生労働省
上の図のとおり、令和5年における短大卒の栄養士の初任給は155,105円、大学卒の栄養士の初任給は180,454円となっています。
大学卒のほうが25,349円高いのは、学歴により基本給に差がある点や、大卒の場合、管理栄養士資格手当がつくといった点が考えられるでしょう。
私の初任給は10年以上前ですが、短大新卒・給食委託会社・残業なしで月給(手当や交通費なども含む金額)12万円ほどだった記憶があります。
<栄養士の年収の推移>
上記のグラフに示したとおり、栄養士の年収は年々上がっています。しかし、インフレが進み、物価は上昇・お金の価値は低下しているので、栄養士が生活のレベルアップを実感するには及ばないかもしれませんね。
栄養士・管理栄養士の昇給のペースは?
栄養士・管理栄養士の昇給事情は、勤め先により大きく差があり平均的な状況を示すのは難しいのが実態です。
そのため、厚生労働省がまとめた年齢別の給与額の令和5年4月分データから昇給状況を考察してみました。
<栄養士・管理栄養士の令和5年4月分の給与額>
職種 | 年齢階層 | 令和5年4月分平均支給額 | |||
きまって支給する給与(A) | うち時間外手当(B) | (A-B) | うち通勤手当 | ||
栄養士 | 20~23歳 | 216,307円 | 11,354円 | 204,953円 | 13,598円 |
24~27歳 | 239,275円 | 14,172円 | 225,103円 | 11,761円 | |
28~31歳 | 252,002円 | 14,758円 | 237,244円 | 14,579円 | |
32~35歳 | 272,232円 | 18,851円 | 253,381円 | 10,539円 | |
36~39歳 | 287,450円 | 16,134円 | 271,316円 | 11,512円 | |
40~43歳 | 308,250円 | 17,184円 | 291,066円 | 15,236円 | |
44~47歳 | 328,809円 | 19,678円 | 309,131円 | 12,156円 | |
48~51歳 | 350,329円 | 21,838円 | 328,491円 | 13,193円 | |
52~55歳 | 380,984円 | 28,533円 | 352,451円 | 8,624円 | |
56歳以上 | 374,206円 | 25,226円 | 348,980円 | 15,482円 | |
計 (36.1歳) | 282,204円 | 17,157円 | 265,047円 | 12,640円 |
参照:「令和5年職種別民間給与実態調査 表7 職種別、年齢階層別平均支給額」/厚生労働省
上記の「きまって支給する給与」を、棒グラフで示すと…(↓)
参照:「令和5年職種別民間給与実態調査 表7 職種別、年齢階層別平均支給額」/厚生労働省
上記のグラフを見ると、年齢と比例して給与額が多い実態がわかります。ただし、56歳以降は多少安くなるようです。
20代・30代の方は、会社員として勤めていけば、定年間近までは毎年昇給が見込めるでしょう。3歳ごとの差額も下記に示すので、参考にしてみてくださいね。
<栄養士・管理栄養士の令和5年4月分の年齢別給与額と差額>
年齢 | きまって支給する給与 | 上の行との差額 |
20~23歳 | 216,307円 | – |
24~27歳 | 239,275円 | 22,968円 |
28~31歳 | 252,002円 | 12,727円 |
32~35歳 | 272,232円 | 20,230円 |
36~39歳 | 287,450円 | 15,218円 |
40~43歳 | 308,250円 | 20,800円 |
44~47歳 | 328,809円 | 20,559円 |
48~51歳 | 350,329円 | 21,520円 |
52~55歳 | 380,984円 | 30,655円 |
56歳以上 | 374,206円 | -6,778円 |
参照:「令和5年職種別民間給与実態調査 表7 職種別、年齢階層別平均支給額」/厚生労働省
栄養士・管理栄養士の年齢別の年収は?
<令和5年度栄養士・管理栄養士の年齢別の年収>
参照:「令和5年度賃金構造基本統計調査」/厚生労働省より作成
上記のグラフをみると、栄養士・管理栄養士の年齢別の年収は、20~24歳時が303万円で、年々上昇していき55~59歳の548万円がピークです。
60歳以降は、定年後の再雇用やパート勤務の方が増えると考えられ、25~29歳時程度の水準まで下がるようです。
管理栄養士の職場別の年収は?
管理栄養士の給与は、勤務先により大きく差があります。公的機関が公表しているデータをもとに13種類の勤務先の年収の目安をまとめてみました。
<13種の管理栄養士の職場の年収目安>
職場の種類 | 平均年収の目安 |
フリーランス | ※150万円 |
介護施設 | 260~310万円 |
スポーツジム | 240~360万円 |
薬局・ドラッグストア | 250~330万円 |
保育施設 | 300~350万円 |
病院 | 300~400万円 |
給食委託会社 | 330~400万円 |
美容クリニック | ※350万円(医療施設に勤める栄養士・管理栄養士の相場) |
治験コーディネーター | 443万円 |
学校 | ※450万円(教育の食育分野に勤める栄養士・管理栄養士の相場) |
栄養士や調理師養成施設 | ※450万円(教育の食育分野に勤める栄養士・管理栄養士の相場) |
行政施設 | 450~600万円 |
食品メーカー | ※550万円(研究の教育分野に勤める栄養士・管理栄養士の相場) |
参照:※以外:「令和3年賃金構造基本統計調査」/厚生労働省 ※:「管理栄養士の学歴及び職域と年収に関する疫学調査 表 8.職域別年収」/厚生労働科学研究成果データベース
フリーランスとして活動する管理栄養士は、年収1000万円以上も目指せる夢のある勤務スタイルです。しかし、現実は年収150万円と一番低年収であり、厳しい状況が伺えます。
一方で、公務員である行政施設や、食品メーカーといった大手企業は、年収450~600万円と高収入な傾向があるようです。
私は、現在フリーランスですが、会社に頼らず仕事を稼ぐのは、正直大変です。とくに1年目は、低単価で信頼と実績を積む場合が大半なので時給100円以下になることもしばしばでした。でも、信頼と実績が溜まったら、仕事を安定的にいただけるようになります。甘くない世界なので、会社員のほうが向いている方も多いでしょう。しかし、私はコミュ障なので、人間関係でストレスを抱えてしまうことが多いんですよね。だから、自宅で働ける今のスタイルが気に入っています。
「管理栄養士の職場13種類を徹底解説!年収や選び方を知ってピッタリな環境で働こう」
で詳しく説明しています。
管理栄養士の業態別の年収は?
<管理栄養士の業態別の年収>
業態 | 年収目安 |
正社員 | 約350万~390万円 |
契約社員 | 約300万~360万円 |
アルバイト・パート | 約242万円 |
参照:「マイナビコメディカル」/マイナビ ※求人サイト、マイナビコメディカルに掲載の管理栄養士求人をもとに算出とのこと
栄養士・管理栄養士(正社員)の年収目安
正社員の栄養士・管理栄養士は、年収約350万~390万円の求人が多いそうです。ただし、地域や勤務先により大きく金額差があるので、求人を確認しましょう。
栄養士・管理栄養士(契約社員)の年収目安
契約社員の栄養士・管理栄養士は、年収約300万~390万円の求人が多いようです。契約社員は、雇用期間を定めて働きますが、多くの場合、役割や勤務時間は正社員に準じています。ただし、「日勤のみOK」「短時間勤務OK」といった職場もあるようです。
栄養士・管理栄養士(アルバイト・パート)の年収目安
アルバイトやパートの栄養士・管理栄養士は、年収約242万円が平均的のようです。時給制が一般的で、マイナビコメディカルによる平均データは下記の労働条件となっています。
・約14日勤務/月
・ボーナス約7.6万円
管理栄養士の福利厚生の特徴は?
そもそも福利厚生とは、「給与やボーナスとは別に企業が従業員やその家族に提供するサービス」をいいます。その企業で働くメリットを実感してもらい、満足感を高めて離職を防ぐために設けられています。
企業が従業員に必ず提供するよう法律で義務付けられている「法定福利厚生」と、企業独自の「法定外福利厚生」の2種類があり、管理栄養士のおもな福利厚生は下記のとおりです。
法定福利厚生 | 法定外福利厚生 |
企業として提供必須 ・健康保険 |
企業からの提供は任意 ・食事補助 |
法定福利厚生については、会社員として働けば誰もが受けられます。一方で、法定外福利厚生は各企業により独自に設けているため、就職や転職活動をする際は求人内容をよく確認しましょう。
筆者は、今まで管理栄養士として給食委託会社・直営病院・企業型保育園の3つの会社で勤務経験があります。「住宅手当」や「家族手当」については、3つの会社すべていおいて世帯主のみに適用されていたので、独身で一人暮らしをしていたときに受給されていました。
「交通費支給」「特別休暇制度」「産前産後休暇」「育児手当」「介護手当」についても、私が勤めたすべての会社で設けられており、介護手当以外は受給経験があります。
徒歩圏外で働くならば、交通費支給がないと困りますよね。私の勤めた会社の特別休暇は、夏休みとして夏シーズンに1日休日を取得できる制度でした。育児休暇は、「育休開始時賃金日額×支給日数(原則30日)×67%」を6カ月まで受給でき、6カ月以降は50%が受給できるので、生活するうえでとてもありがたかったです。
栄養士の場合は、管理栄養士免許を取得するための費用を補助してくれたり、勉強会を開催してくれる良心的な企業もあります。必要な方は確認してみるとよいでしょう。
管理栄養士と9つの他業種との年収比較は?
管理栄養士は、ほかの職種に比べて年収が高いのかどうかも気になりますよね。令和4年賃金構造基本統計調査の結果をもとに栄養士・管理栄養士およびその他の職種を10個ピックアップして、年収をまとめてみました。上から年収が低い順に示しているので、参考にしてみてください。
<栄養士とほかの業種との年収比較>
職種名 | 年収目安 |
ホールスタッフ(レストラン) | 330.0万円 |
衣料販売員(アパレル) | 357.7万円 |
施設介護員 | 362.9万円 |
栄養士・管理栄養士 | 379.1万円 |
スポーツインストラクター | 383.8万円 |
保育士 | 391.4万円 |
医療事務 | 437.4万円 |
一般事務 | 490.0万円 |
看護師 | 508.1万円 |
薬剤師 | 583.4万円 |
参照:「職業情報提供サイトjobtag」/厚生労働省
身近な職種を10個ピックアップしたなかで、栄養士・管理栄養士は、年収が低い傾向があります。
管理栄養士として年収アップするには?
栄養士・管理栄養士は一般的に低年収ですが、「食が好き」「健康に興味がある」といった方にとっては大きなやりがいを感じられる仕事です。
資格を活かして大きく稼ぎたい場合は、下記のいずれかを実践してみましょう。
②高待遇の職場を狙う
③フリーランスで大きく稼ぐ
①専門分野の資格を取得する
管理栄養士には、臨床栄養、学校栄養、健康・スポーツ栄養、給食管理、公衆栄養、地域栄養、福祉( 高齢・障がい、児童)栄養 といった分野があります。
あなたが関心のある分野や現職で携わっている分野の認定資格を取得して、専門性を高めれば年収アップの交渉材料となるでしょう。
②高待遇の職場を狙う
高待遇な管理栄養士の職場は、人気があるので競争率が高く狭き門です。
でも、諦めるのはまだ早いですよ!じつは、就職の難易度をグンと下げて高待遇の職場で働ける道もあります。
③フリーランスで大きく稼ぐ
会社員で大きく年収アップを目指すのは、かなり難しいですが、フリーランスなら青天井です。大台の年収1000万円を目指すのも夢ではありません。自分の可能性を信じている方は、挑戦してみてはいかがでしょうか?
・レシピ作成
・栄養価計算
・特定保健指導
・ライター
・料理講師 など
私が知るなかでは、フリーランスの管理栄養士ライターとして年商2500万円を達成されているスゴイ方もいます。彼女はもともと平凡な成績で天才気質ではなかったようですが、すさまじい行動量を全力でこなした結果、起業2年ほどで達成したそうです。
このような結果を出すには、並大抵の努力では叶わないでしょう。
しかし、「人の下で働くのが苦手」とか、筆者である私のように「コミュ障」とか「人間関係で悩みたくない」といった方にとっては、自分の”好き”や”資格”を活かしながら、収入アップを狙える夢のある職業でもあります。
年収だけでなく「やりたい」を大切に
管理栄養士の年収は高くはありませんが、専門知識や実務経験により一生活かせるスキルが身に付きます。
食を通じて「ありがとう」と感謝され、プライベートでも離乳食や幼児食・家族の健康管理にも活かせるんです。
年収が高いに越したことはないですが、プライスレスな価値もありますよね。年収だけでなく、あなたの「やりたい」気持ちを大事にして、気持ちよく働ける場所を模索してみてはいかがでしょうか?
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